東南アジアSEO最前線 – SEO Mastery Summit 参加レポ

DemandSphere の室屋が SEO Mastery Summit に参加してきましたので、レポートをお届けします。

ベトナムのホーチミンで開催された SEO Mastery Summit は、タイのチェンマイで開催される Chiang Mai SEO Conference と並び、ディープな話題が飛び交うイベントとして知られています。リンクビルディングやコンテンツ戦略が中心のセッションが多く、日本人 SEOs として懐かしさを感じつつも、現在の世界の SEO の潮流を改めて考えさせられました。

SEO Mastery Summit とは

SEOカンファレンスとしては会期が長く、2025年3月10日(月)から14日(金)までの5日間。自然と友だちができます。初日はグループワーク、2日目は午前と午後に別れた長丁場の講義。3日目からは1セッションが1時間になり、木曜と金曜は大会場で30分ずつのセッションが畳み掛けます。毎日違う形式なので、飽きることなく楽しめるイベントでした。

参加者としては、香港、インド、シンガポール、オーストラリア、トルコなど、APAC地域の人が多かったです。ブルガリア、ラトビア、ブルネイなどの方とも意見交換できて貴重な機会となりました。

ほかのカンファレンスと違うのは、「日本から来たよ」というと「jpドメイン持っているよ」という返事が返ってくること。LinkedInなども複数アカウント持ってる人が多かったですね。みなさんハックな精神がすごい。

海外におけるリンクビルディング

会場では「リンクビルディング」という単語が混ざったオリジナルソングが流れるほど、リンク戦略への熱量が高かったです。いや、オリジナルソングがあること自体が驚きなのですが。リンク施策に取り組むのは当たり前、というのがこちらの常識みたいです。SEOチームの中でリンクビルディングを専門に担当しているという人もいました。日本では聞いたことがないですね。

ある著名なリンクビルダーとお話したところ「日本は世界で一番リンクが効かない国」と言われました。地理的な要因や言語の特性が強く、良質なコンテンツも豊富にあるため、相対的にリンクの重要性が低くなるのだそうです。

東南アジアの国を想像すれば、理解しやすいでしょう。四方が強国に囲まれていたり、島々がグラデーションのように国境になっていたり。品質の低いコンテンツばかり、という状況もありえるでしょう。すると相対的にリンクが重要になったり、ccTLD(国別コードトップレベルドメイン)のリンクを使って自分の国をシグナルしよう、と考えるのは当然かもしれません。

インドなども興味深いです。多民族国家なので、一括りにしてターゲティングすることができないからです。誰にコンテンツを届けたいのかを考え、相手の言語や文化を知る必要があります。こうした消費者理解を前提に、どんな風にリンクビルディングすべきかを考えるのが本場のリンク戦略です。これはもはやブラックハットどころか王道のマーケティングのような気がします。

バイク社会でした

検索を良くする AI、今後考えるべき AI

リンクの重要性を書いてきましたが、被リンクの影響が薄れつつあると感じる場面もありました。地元ホーチミン在住の方の話では、現在の Google は、ほぼ地理的問題をクリアした結果を返してくれるそうです。予期せず外国語のページが表示される可能性はゼロ。ここ数年で変なサイトが消えて、使いやすさも向上したと聞きました。

憶測ではありますが、MUM のような多言語アルゴリズムが上手く機能しているのではないでしょうか。日本では、そうした AI アルゴリズムがどんなことをしているのか体感しにくいのですが、きっと世界の検索を良くしているのだと思います。

AI といえば、「西洋の LLM はすべて検知可能だから SEO に使えない」と明言されたセッションが興味深かったです。ウォーターマーク技術が進み、AI 生成コンテンツの特定が容易になっているのだそうです。ステガノグラフィーという、暗号埋め込み技術です。Google が発表した SynthID のような技術は今後続々と登場するでしょう。こうした活動は、コンテンツやクリエイターを守るために、とても良いことだと思うのですが、AI で作ったコンテンツがすべてネガティブに評価されてしまうとしたら困りますね。。この記事も AI の助けを借りているので。。

じゃあどうやって AI でコンテンツ生成すべきか?ずばり、中国製の LLM を使おう、という結論でした。こちらの人は思考が柔軟です。地理的な要因が大きいと思いますが、みなさん中国やロシアの技術にも高い関心があるようでした。※本稿の読者のみなさまにおかれましては、ITセキュリティチームに確認してからそれらのツールを利用してください。

アジアでも問われる、品質と関連性

リンクの重要性が高い東南アジアでも、結局は「質」や「関連性」が問われるようです。DR のような指標はアテにならない、関連性を重視すべき、と主張をする登壇者が複数名いました。DRが低くても良質なリンクはいっぱいあるし、良質でも関連性がなければ意味がないとか。関連性のスコアリングにあたって、エンティティ分析やマシンラーニングを活用しているのは興味深かったです。

リンクビルディングのよくある間違いとして、購買ページへ直接リンクを貼ることが挙げられました。なぜなら、リンク元との関連性が低いからです。例えば、Wikipedia が仮想通貨の購入ページにリンクを貼るのは変ですよね。どんなに DR が高くても、そのリンクは効果的ではありません。「リンクを貼るなら、そこに必然性を見出さなければならない」と語っていました。

コンテンツ生成のセッションでも、品質に関する話が多かったです。ただし欧米と違って「愛が大切」のような、感性にうったえるセッションはありませんでした。感性的だな、曖昧だな、という印象のセッションもあるのですが、後半から難しい話になってきて「ヒューマニティのある文章はレキシカル(語彙的)に分析すると、エントロピーが大きくなります」などと専門用語が飛び交います。わからない単語をググったりメモしたり、大忙しでした。油断できません。

ある登壇者は7つの仮想環境を用意してそれぞれにエージェントや RAG を設定していました。品質チェックや作業時間の管理も自動化して、CTR などの指標が一定の基準を下回ると自動でリライトする仕組みを構築したとか。この徹底した技術活用が、品質を担保しているというわけです。

品質や関連性など、感覚的にやりがちなこともコンピューターサイエンス的にアプローチされていて、感心しました。コンテンツ生成もリンク施策も好きではありませんが、こういう姿勢は見習いたいです。

SERPの変化とリッチスニペットの活用

東南アジアでもリッチスニペットの増加が顕著で、アンサーボックスや PAA(ほかのひとはこちらも検索)を狙う手法についても語られていました。確かに、ベトナムでも Google はリッチで使いやすかったです。ベトナム語が入力できなくても、なんとなくボタンを押しているとそれらしい結果が返ってきます。ちょうどこの日はバトー蜂起80周年だったようで、リッチなスニペットがいっぱい出ていました。

ベトナムのSERP:歴史の問題とQ&Aの強調スニペット

ある登壇者が “Snippet Optimisation” という、リッチスニペットに入る取り組みを披露しました。しかも結果としてトラフィックを前年比で 2倍以上にしたというから驚きです。従来通りに上位を狙うだけのSEOはナンセンスだ、というのは海外でも同じ状況のようです。

SEOの新たな潮流と成果へのコミットメント

カンファレンス4日目にはパラサイトSEO(寄生サイト)のツールが登場。そんな露骨なツールがあるとは。びっくりです。でも話を聞くと、ハック的なアプローチを突き詰めているだけで、悪質な印象は不思議とありませんでした。むしろ、私が感じた印象は、一言でいうと「ストイック」です。結果にコミットしたいという熱意に溢れています。

例えばブラックハットをやっているという登壇者は大量の電話を使って Googleマップをハックできるか検証していました。動画も公開されているので見てみてください。大量のスマホを持って移動したことで Googleマップが渋滞と勘違いしてしまった、などは有名なネタですが笑えます。

そういえば、初日に行われたワークショップで「KPI は何ですか?」と尋ねた際、メンバー全員から「売上!」と即答されました。トラフィックの増加だけでなく、売上に直結する SEO を意識する姿勢が強いのだと思います。事業会社の参加者は経営層も多く、SEO を単なるマーケティング施策ではなく、ビジネスの根幹として捉えていることが感じられました。

ムービーに写ってました

おわりに

長い!暑い!脳みそが疲れました。しかし非常に刺激的なカンファレンスで、SEOの考え方の根幹から揺さぶられました。それだけで行く価値があったと思います。海外SEOは得意な方だと思っていたのですが、認識が甘かったです。今後東南アジアや馴染みのない地域のSEOに携わる際には、もっと現地のユーザーを考えて取り組みたいですね。

ぜひみなさんも国内外のいろんなカンファレンスに参加してみてください!